読んだ本まとめブログ

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少年たちは花火を横から見たかった【岩井俊二】

少年たちは花火を横から見たかった岩井俊二

 


 

 

【感想】※ネタバレあり

両親の離婚が原因で転向してしまう“なずな”と、主人公の別れの物語です。

アニメ映画の「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか」の元となるような、正確にいうと元になったのはドラマのようなので、アニメ映画制作にあたり小説版もリメイクしたような作品だと後書きからは読み取りました。

私自身、アニメ映画の方は見たことがあったのですが、岩井俊二監督の作品が元だと知らなかったので、驚きました。

岩井俊二監督の作品は生きるやるせなさとともに鋭さのようなものが描かれていると感じていましたが、この小説でもそれらが描かれています。

しかし、岩井俊二監督の初期の作品ということと、本作は小学生たちの箱庭の青春を描いていることもあり、他作品よりはマイルドで切なくも甘酸っぱい作品になっていると思います。

 

読み終わった後はここで終わってしまったのか…というやるせなさ、切なさがありました。

同時に、でも現実ってそんなものだよね、これが限界で現実で妥当な終わりだ、と真逆の感想にはなりますが、区切りが良い終わりだったとも思いました。

少年ができる冒険や自由って限界があって、それでも少年たちは当時だるかったり楽しかったりしたし、でも、時間が経てば同じ熱量は保てなかったり、祈っても少年じゃどうにもできない環境もあるよね、と思わせる切なさがあります。また、主人公以外の少年たちの挑戦や好奇心、冒険もまたよかったです。

一方で、タイトルにもありますが、紅一点のなずなはどこか大人びていて人を魅了する色香があったことなどは分かりますが、なずな視点の物語はなく、横から花火を見たかったのはあくまで“少年たち”です。

なずなは親の離婚や転校というどうにもできないことへの抵抗はあるけど、本人も少年たちより大人なところがあるので、本当はどうにもできないと気づいていて、それでもあの花火大会の日、裏切らずにそばにいてくれて、現実から救い出してくれる何かがほしかったのかな、と思いました。

捨てられる桃、割れた西瓜、プールでなずなにつく蟻からも、捨てられてしまう、なずなの日常はなくなってしまう、誰かに止めてほしい、という感覚が連想されました。

でも、なずなは少年たちより大人なので、最終的には一緒に花火は見ずに去ってしまうわけですね。

 

本当は花火が横から見るとか、下から見るとか、その結果はどうだってよくて、みんなでそうやって花火を見ようとする青春が尊かったのだと、過ぎ去って戻れなくなってから気づくのかもしれませんね。

そんな切なさを感じる一冊でした。